国民の誇り、トルコ国軍

 

 PKKによるテロや南東部でのトルコ軍との衝突などが再びニュース番組の大部分を占めるようになってから、私も「PKK問題の解決策は?」というアンケートをトップページに置いてみた。日本ではこの問題はどう見られているんだろう、と興味があった。トルコ人が圧倒的に支持している「軍によるイラク北部への越境作戦」という選択肢はごく少数の人が選んだ一方、「クルド人地区の自治化」が一番の解決策に選ばれた。トルコ軍とPKK双方がこれまでに多数の死者を出し、こんな衝突やテロがこれからも続くようならいっそのことクルド人自治区を定めれば解決する・・・確かに日本人だけでなくトルコ人以外の外国人にしてもこれは最も穏健で平和的な解決策のように思える。
 
 しかし、トルコ人に南東部の自治化を提案なぞしたら「なんてことを。とんでもない」と言われるにきまっている。トルコ共和国は多くの戦死者を出して建国されたのだ。祖国を敵から守るためにどれほどの代償が払われたか、無名の兵士達が勇敢に戦い倒れていったか・・・トルコでは小学校から「祖国解放戦争と共和国の尊さ」が徹底的に子供達に教え込まれる。確かに、ムスタファ・ケマル・アタテュルク率いるトルコ国軍が、イギリス、ロシア、ギリシャなどによる領土分割の運命にあった「瀕死の病人」オスマン帝国から敵を掃討し、アナトリアの大地を救ったという事実はただごとではない。最近のPKKテロに対する抗議集会では、「Şehitler ölmez, vatan bölünmez(戦死者は死なない、祖国は分割されない)」というスローガンがよく叫ばれていた。トルコ人にとって理由は何であれ、自治化という形であれ、祖国の分割は決して許されないのだ。

 こういう事情から、トルコ人は自らの軍隊を誇りに思っているというのも、想像に難くない。とはいえ、先日の法務大臣メフメト・アリ・シャーヒンによる「捕虜となった8人のトルコ兵の解放をあまり喜べない」という発言はちょっと私には行き過ぎのような気がした。「数人のPKK山賊に8人のトルコ兵がのこのこついて行くなんて許されない。捕虜になるくらいなら死を選択する、それがトルコ兵だ」とも彼は言った。かっこいいこと言ってるけど、PKKとは事実上の戦争状態。戦争に捕虜はつきものではないか。捕虜の兵士達が実はPKKのスパイだとかだったら話は別だが、今までの調査によると彼らのPKKとの関係は否定されている。一国の法務大臣が個人的な意見であっても「死んでしまえばよかった」なんて言っていいのだろうか。後で後悔したのかこの発言をもっとやわらかい表現に訂正してはいたが・・・

 しかし、シャーヒン法務大臣と同じ考えを持つトルコ人は少なくない。トルコ人は誇り高く、たまに見栄っ張りとも取られるほど自らのイメージを重視することもあるが、トルコ軍に関してはなおさらである。一方で、この誇張された民族主義を懸念する声も出ている。民族主義といったらよいのか、愛国主義といったらよいのか・・・悪く言えば全体主義ではないか。「そこまで言うぐらいなら代わりに私を撃ち殺せばよかったのに」とシャーヒン法務大臣に激怒した捕虜兵の母親もいた。国は変わっても母親は母親。息子の解放を喜ぶなというほうが無理だ。

2007年11月10日

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